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活性酸素種と鉄






 酸素は強力な酸化剤であるにも関わらず、酸素分子O2は速度論的に反応性が 低く、生体内分子の酸化には一重項酸素(singlet oxigen)が関与している。しかしながら 酸素分子は電子を受け取り・O2-、H2O2、 ・OHと水分子を生じる(1)。これらの活性酸素種は細胞やゲノムに損傷を与える。さらに xanthine oxidaseのようなオキシダーゼが嫌気的にヌクレオシドの還元とphagoctosisによ る防御や酸素ラジカルの生成を防ぐ役割を担っている。
 DNAは活性酸素種の重要な反応基質だが、フリーな・O2-はDNAと 反応しない。しかしながら・O2- dismutaseはH2O2 を生成する(2)。・O2-はFe3+をFe2+に する(3)。また、鉄硫黄クラスターからFe2+を取り出す(4)。引き続いて フェントン反応(Fenton reaction)によるFe2+をFe3+にする反応 (5)も生じる。こうして・O2-も間接的にDNA傷害に関与する。


【 Fenton reaction 】
 多くの遷移金属は1つ以上の酸化状態を持つ。遷移金属は例えばH2O2 と反応し・OHを生成する。1894年FentonはFe2+のH2O2 が反応しH2O2が消費されることを見つけた(5)。
 鉄は水溶液中でFe(II)~Fe(VI)の5つ酸化状態を持つ。Fe(II)とFe(III)が主であり、よく 研究されている。最近Fe(IV)が細胞内傷害に関与しているという報告もある。例えばADPや ortho-phosphate、EDTAなどでFe2+をキレートしH2O2 の変化を調べると・OHではなくferryl radicalの生成が見られる(6)。[Fe-H2 O2]2+や[FeOOH]+といった囲まれた・OHは(5)や(6) の中間体として使われ、最終的には(7)により・OHを生成する。
 リガンドとFe2+やFe3+の外殻電子軌道は共通である。これらの 複合体の化学特性はリガンドによって規定される。例えばDNAはリガンドとして働くが、その DNA鎖切断の速度論的状態には3つあることが示されている。1つは・OHの拡散と対応し容易に 消失するものであり、残る2つはそうではない。そしてそれらはFe(IV)が関与しているという 報告もある。
 最後にH2O2はまたFe3+と反応する(8)。つまり、 (5)の逆反応であり、これはH2O2過剰でFenton reactionにより 活性酸素種が生じる。


【 H2O2による活性酸素種生成 】
 H2O2と・O2-はsinglet oxigenとperoxynitrite の生成に関わっている。これらの生成は鉄が関与している。
 ・singlet oxygenはH2O2やO2-により生 じると考えられてきた。しかしながら、Fenton/Haber-Weiss chemistryによる生成ではなく、 Cl-がOCl-になる反応を介した生成だと考えられる(9、10)。 (9)はchloroperoxidaseによるH2O2とCl-の反応だ。
 ・O2-はnitric oxideと高い反応性がありperoxynitrite anion を生成する(11)。peroxynitrous acidはpKa=6.7であり生体分子と反応性が高い。また、 ONOO-はH2O2からsinglet oxygenを生成すると考えら れている。結果的にnitric oxide synthaseによるNO・の生成は酸化障害をもたらす。


【 Fenton酸化剤によるDNA酸化傷害 】
 H2O2によるDNA傷害は鉄を介したFenton reactionでできた酸化剤 による。NADHはFe3+からFe2+を再生する。さらにNADHは鉄とDNAの 会合を促進する働きも持つ。
 H2O2型DNA酸化傷害は拡散しやすいhydroxyl radical(・OH)に よるものではない。Fenton酸化剤によるDNA傷害はDNAと会合したFe原子上で生じる。そして その鉄の結合箇所が攻撃性と基質とを決める要因となっていると考えられている。Fenton酸 化剤によるDNA傷害の1つType IはエタノールとH2O2感受性であり、 RTGR、TATTY、CTTRというDNA配列を切断しや すい。Type IIはNGGGを好んで切断する。このような差異は鉄の局在に依存し ていると考えられている。しかしながら、切断箇所が鉄結合サイトである必要はないと考え られる。NGGG配列はラジカル電子の受け貯め(radical electrons' sink)となっているのか もしれない。
 Fenton酸化剤による傷害はDNA塩基か糖に生じる。糖への傷害はdeoxyribose炭素から水素 原子の引き抜きから始まり主鎖の切断や塩基の除去を伴う。5'リン酸基は3'で、3'リン酸糖 は5'で切断され塩基が解離する。もう1つの主要な損傷は5'と3'にリン酸モノエステルを生 成し1塩基ギャップを生じる。γ-lactoneといったいくつかの糖損傷は生じるまでに時間がか かる。
 他の糖損傷としてC1'がβからαへと変わりB型二重らせん構造が部分的に壊れるものがあ る。同時に5'-8-cyclodeoxyribopurinesが放射線で生成することもまた報告されている。 5'-8-cyclodeoxyguanosineはdGMPがFe2+とH2O2にさら されることで生じる。
 塩基に対するラジカル攻撃は二重結合へのOH基付加が起きる。特にpurineN7-C8結合と pyrimidineの5,6結合にその傾向がある。thymine-methyl基からの脱水素もまた起きる。 一般的に塩基に対するラジカル攻撃ではN-glycosyl結合が不安定になりβ-elimination が起こらない限り主鎖の切断は起きない。DNA塩基の攻撃により50種以上の損傷が報告さ れている。iron/H2O2による損傷のスペクトルは放射線によるそ れと似ていることも報告されている。
 Fenton酸化物と放射線による傷害の違いは鉄が直接に関わっているかどうかである。DNA に結合した鉄はDNAラジカルと相互作用し量的にも質的にも損傷の生成に関わっている。 嫌気条件下でFe3+はDNAラジカルと反応する(12)。好気条件下ではDNA peroxyl radicalが形成されFe2+と反応する(13、14)。これらの反応は 損傷スペクトラムの差異を生み出し、ゆえに損傷の解析から原因酸化剤を推定することを 可能にする。
 酸化purine、formamidopyrimidines、8-oxoguanine、thymine glycolなどがよく研究さ れている。他のタイプの傷害としてthymine-tyrosineのcross-linkなどのDNAタンパク質 cross-linkも知られている。


【 Fenton酸化物の脱離 】
 生体内酸化還元反応、ferritinとtransferrinによる鉄輸送は細胞内で厳密に制御され、 活性酸素種による影響を小さくしている。さらにsuperoxideと鉄との隔離、ヒストンに よるDNAの鉄結合阻害によりFenton反応がDNAで起きるのを防いでいる。
 iron/H2O2による活性酸素種はsuperoxide dismutases(SODs) (1)、catalase(15)やcytochrome c、ascorbate、glutathioneといった有機還元剤 (RH)によるH2O2減少を触媒するperoxidases(16)によって分 解される。主な防御機構はSODによる。mammalianではミトコンドリアでMn-SOD、細胞質で Cu、Zn-SODがperoxysomeに、細胞外でもCu、Zn-SODが見つかっている。またFe-SODが細菌 や葉緑体で見つかっている。superoxide dismutationはH2O2を生 じるため、SODによる解毒はFe2+の蓄積阻害(2、3)とperoxynitriteの生成 (11)による。
 catalaseはacatalasemia患者やcatalase欠損細胞の実験からSODほどには重要でないと考 えられている。mammalianではcatalaseはperoxysomeに多く存在しあまり分泌されない。 E. coliは2種のcatalaseを持ち1つは定常期にもう1つはH2O2 にさらされたときに働く。
 真核生物ではglutathione peroxidasesがミトコンドリア、細胞質、peroxysomeで見つか っている。これらの酵素のうち特にselenium glutathione peroxidaseはcatalaseよりも H2O2を除去する効果が高い。peroxidaseはcatalaseよりも基質特 異性が低くFenton-like reactionを起こすorganic hydroperoxideをも還元する。酸化され たglutathioneはNADPH依存性glutathione reductaseにより還元される。
 SOD、catalase、glutathione peroxidaseの発現レベルは厳密に制御されている。例えば SODを増やすと細胞のsuperoxideが枯渇するがH2O2の生成は十分な catalaseやglutathione peroxidaseがあっても増加する。また、glutathione peroxidase 過剰ではcatalaseが十分であってもglutathioneやNADPHの枯渇が起きる。
 真核生物はH2O2が~50μMという低濃度で働くthiol依存性 peroxidase のようなthiol特異的抗酸化酵素も持つ。これは~10mM H2O2であっ てもthiol/metal-catalyzed oxidationから保護するが、peroxidase活性によるものではな い。
 ・OHの解毒効果は非酵素的に行なわれる。ヒストンと染色体のコンパクトな構造がDNAを 保護している。酵素によるsinglet oxygenの除去は検出されていない。carotenoidsなどを 除去に用いていると考えられている。
 NADHの蓄積はH2O2毒性を悪化させる。そしてNADHはiron/H2O2 によるDNA傷害を増加させる。しかしながら、NADPHはFe3+をゆっくり還元し 鉄と結合することで効果的にNADHと競合する。そのため、・O2-が glucose-6-phosphate dehydrogenaseを誘導しNADPHレベルが上昇することとH2O2 がNADPHとNADHの比を大きくすることが重要になる。さらに、mammalianではDNA鎖が切断す ることでpoly(ADP)-ribose形成によるNAD+、すなわちNADHの減少が起きる。最 後にE. coli aconitaseはsuperoxideにより不活化され、Krebs cycleを止め、NADH の生成が阻害される。


【 DNA傷害修復 】
 酵素がDNA酸化障害を直接的に修復することは報告されていない。しかしながら、ある条件 下では・OHによりDNA主鎖上に形成されたcarbon-centerd radicalがsulfhydrylからの水酸基 により再生されることが報告されている。O2、H2O2や鉄 はこの”化学的再生”に影響を与えsulfhydrylはiron/H2O2によるDNA 傷害を悪化させる。
 一度DNA傷害が生じると酵素的に修復する必要がある。損傷を認識し除去し正しい塩基によ り修復しDNA ligaseがストランドを結合する。
 塩基除去修復はDNA glycosylaseにより行なわれる。真核生物ではhydroxymethyluracilが 酵素的に認識されるが細菌では認識できない。5-methylcytosineの酸化によって生じる hydroxymethyluracilの形成が突然変異を防ぐ方向に働く。多くの生物はformamidopyrimidine (FAPy) glycosylase(Fpg)といくつかのpyrimidine hydrate DNA glycosylase(Endo III やEndo VIIIなど)を持っている。Fpgはformamidopyrimidineと8-oxopurineを認識する。後 者はthymine glycol、pyrimidine hydratesやその派生物を認識する。Saccharomyces cerevisiaeはpyrimidine hydrateとformamidopyrimidineを認識するが8-oxoguanineを認 識しない酵素を持つ。これらの酵素はどれもβ-lyase活性を持ちAPサイトの糖の3'-phosphodiester bondを切断し3'に不飽和糖、5'にphosphomonoester基を生じる。
 加えてDNA deoxyribosephosphodiesterase(drPase)活性がglycolyate residuesのような 糖断片や糖の5'や3'を除去する加水分解機構に存在する。さらに、ubiquitous class II AP endonucleasesはAPサイトの5'-phosphodiester bondを加水分解することによる糖の除去を開 始する。結果できる5'-terminal deoxyribose phosphateはdrPaseやβ-lyaseの基質となる。 APサイトや糖断片が除去されギャップが形成されると、細菌ではDNA polymerase I、真核生物 ではDNA polymerase βとDNA ligaseが働き修復される。
 E. coliやヒトでは8-oxoguanineと対を形成したadenineを除去するmismatch repair DNA glycosylase(MutY)が報告されている。cytosineによって除去されたadenineが置き換え られると8-oxoguanineはOG:Aには働かないFpgにより除去される。
 ヌクレオチド除去修復は大きな酵素複合体により行なわれる。おおまかに原核生物では13塩 基、真核生物では28塩基のオリゴヌクレオチドが除去される。酸化障害がこの系によって修復 されているかどうかは分かっていない。ヒトの細胞分画において8-oxoguanine endonuclease が傷害塩基の3'と5'側にニックを入れ1ヌクレオチドのギャップを作るというユニークな修復 経路も報告されている。
 ヌクレオチド除去修復系にはexonucleaseも関与している。nick translationや対を形成して いない損傷末端の除去、phosphomonoesterやphosphoglycolatesといった損傷3'末端の除去に おいて働いている。
 組換え修復は二重鎖切断や酸素ラジカルによるDNA-protein cross-linkの修復で起きている。 homologous recombinationでは二重鎖切断は5'末端が削られ3'-OHの突出から始まり、これが 損傷を受けていないDNAを鋳型として再生する。mammalianでは二重鎖切断はnon-homologous recomninationで行なわれる。これはV(D)J systemによる平滑末端の結合によって修復されて いると考えられている。homologous DNAが働かないのでヌクレオチドは失われゲノムが大きく 変化することがある。


≪文献≫
The Journal of Biological Chemistry, 1997, Vol.272, No.31 19095-19098
Formation, Prevention, and Repair of DNA Damage by Iron / Hydrogen Peroxide
Ernst S. Henle, Stuart Linn








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