Helix-Hairpin-Helixモチーフによる傷害塩基の認識機構

DNA傷害検出と除去修復におけるへリックス・ヘアピン・へリックスモチーフ
 mammalin DNA polymerase β(Polβ)はDNA中のAPサイトを検出する活性を持つ。Polβ はこの部位に修復酵素を作用させる。PolβでAP lyase活性を有するN末ドメインはへリッ クス・ヘアピン・へリックスモチーフ(HhHモチーフ)を含み、これにより傷害塩基を 認識し修復する。このモチーフはαへリックス2本が逆平行に並びDNAと作用する。

塩基対検定
 Watson-Crick形塩基対の検定はHhHにあるLysの水素原子で行なわれる。このときLysは minor grooveから入りε-NH3+がpyrimidineのO2と水素結合を形 成する。水素結合はDNAが標準的なB型(χ=80°)のときに形成される。塩基対のチェック が1つ終わるとDNA鎖にそって次の塩基が検定される。この相互作用はpolymerase反応に おけるPolβ thumbドメインArg残基によるminoor grooveとのコンタクトと類似している。 DNAがB型を取っている場合にはO2とH1'のvan der Waals半径によりC1'が求核攻撃から守 られる。ε-NH3+がO2と水素結合を取っているときはC1'のvan der Waals半径よりも外側に位置している。弱塩基性のカルボニル酸素(O2)と水素結合を形 成しているLysは安定化され、求核的でなくなる。

C1'における求核攻撃
 HhHモチーフにあるLysによる求核攻撃は水素結合の受容体がなく脱プロトン化したとき におきる。C1'部位への求核攻撃の反応性増大は塩基がないことによる近づきやすさで説 明できる。修飾塩基への反応性はあまり明らかではないがχにより説明ができる。low anti formの立体構造(χ=10°)では水素結合が形成されない。low anti formを取るとO2が Lysから遠ざかることによる。この立体構造によりε-NH2が露出したC1'に求 核攻撃するようになる。求核攻撃の前に起きる脱プロトン化はO4'へプロトンが移動する ことによる。O4'のプロトン化は1'-OHからの電子供与によってC1'がカルボニウム・イオン としての遷移構造安定化を誘発する。1'-OHが傷害塩基の場合にも同じタイプの遷移構造 が可能だ。さらに塩基のSN2置換により結合水や塩基も反応しうる。
 DNAとPolβとの複合体の立体構造からH34とK35が触媒活性に寄与していることが分かっ た。major grooveにあるH34のimidazole環がAPサイトの塩基部位に入っていると考えられ ている。imidazole環は1'-OHと水素結合を形成することでhemiacetalの開裂によるカルボ ニウム・イオン中間体の安定化に利いている。Schiff baseを形成するための1'-OHの置換 のときH34は酸性触媒基として働く。また、β-eliminationにおけるC2'の脱プロトン化時 には塩基性触媒基として働く。EndoIIIにおけるD138も同じ役割を担っている。PolβのN 末ドメインでK35はβ-elimination中にC3'からリン酸基のプロトン化に利いている。

DNA結合と活性の構造論
 N末ドメインはssDNAやdsDNAのAPサイトにおけるβ-eliminationを触媒するdRPaseとして の機能を持つ。Polβが3'-OHを付加する活性を持つかどうかは今後の課題である。Polβは 傷害塩基に対するN-glylase活性とAPサイトに対するAP lyase活性を有するEndoIIIとはHhH モチーフに相似性を持つ。HhHモチーフを介したDNAとPolβとの複合体の構造が解かれた。 この中にはHhHとDNAとの相互作用のみが見られた。PolβのfingerドメインにあるHhHモチー フとDNA主鎖リン酸基との間やN末ドメインのHhHとの間に非特異的な結合があることが知ら れている。DNA複合体ではHhHモチーフにある2つ目のαへリックスN末側のアミドや1つ目の αへリックスC末でカルボニル基と金属もしくは水がリン酸基と相互作用している。N末ドメ インはこのような作用を持っていない。N末ドメインとDNAの複合体は結晶であり生体内とは 環境が違うため1つのDNAに2つのPolβが結合している。また複合体が小さいため、Ωループ がDNAと相互作用していない。NMR解析ではHhHモチーフとΩループがN末ドメインのHelix2と DNA結合性を決定付けるかのようにDNAと相互作用している。架橋実験からS30とH34がssDNA とN末ドメインのΩループと作用していることが示された。EndoIIIはAPサイトの主鎖がDNase で分解されないようにminor grooveを守っているがmajor grooveからのメチル修飾は防いで いない。

Schiff base形成
 EndoIIIとPolβのN末ドメインはAPサイトを含むDNAとSchiff baseを形成する。EndoIIIに おけるSchiff baseに関わるHhHにあるLys120をつぶしたところkcatが105 から101s-1へKmは4倍となった。この残基はPolβではK68に相当する。 N末ドメインのK72AはSchiff base形成を行なう。

触媒残基のゆらぎ
 N末ドメインとDNAの相互作用の様相がNMRとX線結晶解析で大きく違うのはDNA結合と触媒能 を考える上で重要だ。K68、H34、K35といった触媒残基はゆらいだループなためDNA中のAPサイ トと作用しやすい。ゆらいだ部分を除外すると4つのへリックス主鎖と62~65残基にあるターン におけるX線結晶解析でのrmsdは1.6Åとなる。HhHにあるT67とK68は結晶中ではへリックスだが 溶液中では異なり、minor grooveに入りやすい。27~35残基のΩループはNMRでHelix1と2の間 で見つかった。これは結晶中では見られずへリックスを形成していた。HhHの間やΩループの近 傍にあるへリックス間の主鎖はゆらぎが大きい。動揺にEndoIIIでは1.85Åの結晶構造の中にお けるHhHでゆらぎが提唱されている。一般的にDNA結合タンパク質は塩基性残基をminor grooveに いれ主鎖のゆらぎを使って働いているのかもしれない。

私達の構造モデル
 私達はPolβのHhHモチーフとΩループ、EndoIIIのB型DNAとHhHモチーフとの複合体を考え 合わせた。このモデルではDNAとの相互作用を減らし最適化した。HhHモチーフとΩループは minor/major grooveに位置するので2通りの結合モデルが考慮された。HhHモチーフがminor grooveへ、Ωループがmajor grooveへ入ることが触媒活性に必要と考えられる。この複合体 は結晶構造解析から求まった非特異的な結合モデルとは異なる。モデルには不利な相互作用 はなく、エネルギー的にも最適化されタンパク質のゆらぎにより強くDNAと結合している。非 特異的な結合様式ではないので、DNAポリメラーゼのへリックスモチーフによるDNAとの相互 作用の1モデルとして考える上で重要なモデルだと思われる。実際にTaq DNAポリメラーゼや Klenow flagmentにおいてそのDNA複合体がediting modeとpolymerase modeとで結合様式が 大きく異なることが報告されている。
 APサイトのC1'が保存されているLysの近くに存在する。EndoIIIではβ-eliminationによる 主鎖の切断がD138の近傍で生じる。D138はC2'の脱プロトン化を行なう塩基性残基でも触媒残 基でもある。PolβN末ドメインのH34は空間的にD138と同様の位置に存在する。EndoIIIでC1' に起きるLysのε-NH2による求核攻撃はminor grooveに位置するdeoxyriboseの H1'側から立体的にアクセスできる。C1'はmajor grooveでは塩基により塞がれているので求 核攻撃しずらい。ENdoIIIではmajor grooveから損傷塩基の置換が起き得る。

MutYや3-MeA DNA glycosylase IIとの比較
 MutYの活性は8-oxoguanineやguanine、cytosineと対を形成したadenineのSer-OHによる求核 置換反応として知られている。OG:Aミスマッチにおいて8-oxoguanineがsynでC1'が保護されて いるのに対しadenineはlow anti form(χ=30°)を取っている。3-MeA DNA glycosylase II ではTrp13のindole環のNHが水素結合を形成している。そしてHhHモチーフではLysがTrpで置き 換わっているため水分子が求核剤として働きAP lyase活性を持っている。

主鎖のねじれ、塩基フリップ、Minor groove bind
 DNA修復酵素は主鎖のねじれ、塩基のフリップアウト、minor grooveとの相互作用を通じて 傷害DNAを認識している。これらの認識様式は変異体で判断することができず、また傷害塩基 の認識に共同的に働いていることもありえる。Uracil DNA glycosylaseとG:UミスマッチDNA との複合体立体構造やT4 EndoVとthymine dimerを含んだDNAとの複合体の立体構造から塩基の フリップアウトと主鎖のねじれとの相互作用が傷害認識に重要であることが分かった。塩基 フリップアウトモデルでは酵素の特異的認識部位で傷害塩基が直接に検出される。修飾やミス マッチを含むDNAにおいて修飾塩基はフリップアウトしないことが報告されている。このこと は初期の傷害塩基認識では主鎖のねじれが検出されていることが予想される。HhHモチーフを 持たないuracil DNA glycosylaseではminor grooveからArgが入り込むことでDNAから塩基が 押し出される。

HhHによる非特異的作用は活性に不十分
 HhHモチーフは配列非特異的なDNA主鎖認識モチーフだと考えられている。非特異的な相互 作用は傷害塩基認識には不十分だ。しかしながら、主鎖のねじれの検出はHhH-DNA相互作用 の開始としては重要である。N末ドメインにおいてHhH-DNA相互作用におけるK35、K68、K72 という3つのLysのAPサイトに対する作用が示された。5'末端に結合するLysは5'-deoxyribose に結合するAPサイトの代わりをすると考えられている。機構的にK68は開裂するphosphodiester bondと相互作用しSchiff baseを形成する。しかしここに問題がある。始めに重要なことに 非特異的な複合体ではK68は触媒残基となりえない。第2にK68がβ-eliminationに関わるリン 酸基と作用すると同時にC1'とSchiff baseを形成するという2つの役割を担えるとは考えずら いということである。

塩基フリップアウト
 塩基フリップアウト機構はEndoIIIと3-MeA DNA glycosylaseで提唱されてきた。EndoIIIで はHhHドメインとFe4S4ドメインの表層にある親水的なポケットがフリ ップアウトした塩基を受け入れると考えられる。3-MeAではHhHドメイン表層の疎水的なポケッ トと2つ目のドメインが芳香環を一列に並べここに正電荷を持った芳香環が結合すると考えら れる。

塩基対検定
 塩基傷害や修飾はDNA鎖の中に存在するので塩基対検定機構が考えられている。修復酵素と DNAとの相互作用はDNA傷害を効率よく検出できる。傷害を容易に検出できる方法としてmajor/ minor grooveを介して塩基対をスキャンする方法が考えられる。minor grooveは塩基と水素 結合をするのに適しているため修復酵素によるパターンの読み取りに最適だ。ミスマッチなど の不安定な塩基対は修復酵素によりその非対称性が認識される。多くの非対称なミスマッチは 迅速に認識されている。塩基フリップアウトだけでは不十分であり反応の初発段階ではないと 考えられている。塩基のフリップアウトには結合エネルギーとねじれのエネルギーが必要だ。 EndoIIIにおける私達の認識モデルでは塩基フリップアウトは必ずしも必要としない。塩基対 の検定は修復酵素のminor grooveに沿った迅速な拡散を誘導し、正常塩基対の検定、異常塩 基対の修復をすばやく行なう。N末ドメインではH34のindole環が入り込む。そしてEndoIIIで はこれが多分傷害塩基のフリップアウトと認識に使われているのだろう。

今後
 私達はHhHモチーフに保存されているLysがプロトン化しminor grooveからDNA鎖に入り込むと いうモデルを考えた。Lysは塩基対のO2かN3と水素結合することを通じWatson-Crick型の正常な 塩基対を認識する。正常な塩基対の場合にはLysはプロトン化した状態で安定化する。Schiff base中間体のトラップは触媒機構に重要な情報を与える。正常な塩基、改変された塩基、APサイ トとのSchiff baseによってLysがminor grooveから塩基に水素結合することで作用していること が判明した。複数の傷害部位が入ったDNAを用いることで傷害認識がスライディングによるのか それともそうではないのかが分かるかもしれない。


≪文献≫
Biochemistry, 1997, Vol.36, No.16 4713-4717
DNA Polymerase β in Abasic Site Repair: A Structurally Conseved Helix-Hairpin-Helix Motif in Lesion Detection by Base Excision Repair Enzymes
Gregory P. Mullen, Samuel H. Wilson

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